京の織匠・矢代仁は、享保5年(1720)創業以来、最上の御召を創るべく心をくだき愛情をそそぎ、幾代にもわたり日々研鑚を続けてまいりました。よりお客様のニーズに俊敏に対応できるよう、明治35年(1902)には、生糸から製品にいたるまで一貫した作業を行う工場を建設し、また製作した御召はその責任を明らかにするために、「美さを御召」の橙色の商標を付けております。こちらでは、当時の工場内の様子を表した版画とともに、商品知識の一端もと存じましてその工程を図解で説明いたします。
▲「美さを御召」の登録商標
1.原糸
製品の優秀性を持たせる為に、特に極細の最上原糸を使用しております。(21中以上の細糸
2.精錬
生糸の束を湯につけてやわらかく練るために、長時間に亘り入念に精錬しております。

▲「矢代仁」に古くから残る御召裂見本帳
3.意匠
常に弊社が研究創作しております。

4.糸染
精錬後の糸をかわかして、その糸を染料の中につけ、何回も染具合を確認し、色を出しております。

5.ヨコ糸糊付
後日品質に影響をきたしますので、高級糊を使用し、強度の糊付けをいたします。
6.撚糸
撚糸は糊付と同様、品質に大きな影響をもたらしますので、特に強度の撚りを掛けたもの
を使用しております。この撚り方によって、生地の質が変わってきます。
7.織
タテ糸・ヨコ糸が調うと、ようやく機織となります。

弊社では、皆様に永い間ご愛用いただけるよう、製品が出来上がるまでの各工程に、永年勤続で培われた西陣の最高の技術者を配し、万全を期しております。
以上のように、入念な製作工程と吟味された材料によって創り出された「美さを御召」は、一度ご使用になられますとその風合(肌ざわり)の心地良さ、着やすさなどきっとお気に召すことと存じます。また品質本位に細部にいたるまで意を用いておりますから、再三の洗張りにもよく耐えられ、永く永くご愛用いただけるものと存じます。



※21中以上の細糸
絹のような断面が均一でなく太いところや細いところがある天然繊維は、糸の太さを、長さと重さの関係から計算するデニールという単位で表示します。繭糸一本は、平均で3デニールという太さです。繭糸が10本で生糸を作っていると、30デニールといわれます。生糸取引の場では「30中」とよび合いますが、「中」が意味するところは、平均が30デニールだということです。「21中」は、3デニールの繭糸7本から構成されている生糸で、極細の糸ということになります。なお、生糸の質は太さだけでなく、等級(格付)によっても分けられています。それは、6A〜A格、B格まであり、6Aが最高で、B格は不合格となります。その基準は、(1)色相や光沢および手ざわりが良好、(2)糸あれ、汚れなどがない、(3)糸と糸の繋ぎ目である節が目立たない、(4)伸度が良い、ことなどです。生糸の取引の際には、27中3Aランクが相場とされます。弊社では、最高級の御召を作るために、21中という極細で5A、6Aという最高ランクの原糸を用いて、御召を織ります。細くて上質の糸ほど、伸縮性に富み柔軟であるため、手触りや着心地がよく、しわになりにくい、洗張りによく耐える、などの特長があります。
※撚糸
一般的に生糸には撚りがかかっておらず数十本もの繭糸が平行に並んでいますが、特別な味を出すために生糸に撚りをかけることがあります。
目安として1mに甘撚りは200〜500回、並撚りは500〜800回、強撚糸は1mに1000回以上撚ったものとされます。又、撚りには左右があり、S撚り(右撚り)、Z撚り(左撚り)と定義されます。
合撚:
m/200〜500回の甘撚り、発色、良好。
合撚:
下撚糸と反対に甘く撚る、m/800〜1200回位、艶が有る。
駒撚:
下撚m/1200〜2500回位、上撚m/900〜1800回位、コシとシャリ感。
特撚:
特駒、御召ヌキ。m/1800〜3000回位の強撚、夏物、絽、紗、御召。
飾撚:
リング、壁撚り。強い下撚りをかけた太めの糸と、撚りのない細めの糸を引き揃えて、下撚りと反対方向に撚りをかけたものです。
※御召ヌキのできるまでの工程
生糸→下撚(糸繰=合糸=下撚m/200〜300回)→精錬(ソーダ、石鹸等)→染→糊付(ふのり、姫糊)→糸繰→管巻き→八丁撚糸(m/2800〜3000回)


    YASHIRONI 株式会社 矢代仁
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